超能力者の過去

投稿日 2025.01.18 更新日 2025.01.18

 それは数年前の出来事だった⋯⋯

 タイラーはコーカサス地方のとある山岳国への侵攻作戦に従事していた。自身が育成した超能力部隊の実力を試す⋯⋯初めての機会となる作戦だった。

 そして、その成果は予想を大幅に上回る。

 サイコキネシスで敵戦闘車両を次々と使用不能にしたのだ。最終的に敵兵士らが手に持つ銃も、超能力で捻じ曲げて使用不能にした上で⋯⋯

 降伏、投降を呼びかけるものとなった。

 このやり方なら短期間で戦いを収束させられそうに思えた。

 このやり方なら⋯⋯

 誰も傷つくことがない。やる方も良心が痛まない。

 しかし、軍上層部の見解は違った。

 人体に対してやれ⋯⋯

 それは兵士に限らない。民間人⋯⋯女子供も躊躇わずやれ⋯⋯

 敵国民に強い恐怖心を植え付けさせ、二度とロシアに歯向かわせないようにするため、徹底的にやるよう命令が下される。

 タイラーは己自身の運命を呪った⋯⋯

 寺院での窮屈な生活に辟易して、チベット人としてではなく、一人の男として自由に生きたい意欲に駆られ⋯⋯今さらになって、深く考えることなくロシアに渡航したのは間違いだったことに気づかされたのだ。

「俺が今やっていることは⋯⋯中共と一緒じゃないか!」

 そして、同じ頃⋯⋯

 タイラーと似たような苦悩に苛まれ続けていた男がいた。

 人民解放軍の心霊気功部隊のリー少佐である。彼もまた⋯⋯一人孤独な戦いを強いられていた。

 超能力にしろ霊能力にしろ⋯

 相手を非物理的に無力化できるその様相から⋯⋯

 当初、オカルトに懐疑的であった軍上層部も、低予算、低コストな戦法として重宝するように考えを改めていた。

 また、一般部隊の指揮官たちからも、こうした能力の本質と実態の理解が進んでいなかったばかり⋯⋯無尽蔵な能力と誤解され、味方部隊からの支援要請を延々と受け続けることとなり疲弊した。

「俺たち超能力者、霊能者は機械じゃない! 血の通った人間だぞ! 良心の呵責だって感じる!」

 誰が流布したのか⋯⋯

 残忍な手口で敵兵士、民間人までも手にかけるデマまで流される。そして、タイラーとリーの二人による共謀、反抗作戦が始まる。

つづく