スカウト
さらに一週間が経過した――
ゴンの働きぶりは思いのほか良かったので、タイラーは安心して山荘の仕事を任せることにした。
そして、自身は今⋯⋯
列車に数時間揺られて、首都ウィルクスにやって来ていた。セントラル駅前広場の案内板の前で、これから尋ねたい目的地を確認する。
「中央市場は⋯⋯こっちか」
中央市場は駅前広場から歩いて数分の場所にあった。
市場の入口は多くの買い物客でごった返していたが⋯⋯それは季節商品を取り扱う露天商が優先的に出店することが許された特設エリアとなるため、多くの人々がそれに魅かれて集まっていた。
このため、市場の奥へ入ると比較的閑散としていた。タイラーはある人物が営む露店を探す。そして、どうやら見つけたようだ⋯⋯カチューシャを口ずさみながら、ピロシキを販売している男がいる屋台だ。
「ピロシキを一つもらうか」
「へい、ありがと⋯⋯タ、タイラーさん!?」
「久々だな。元気な様子だな」
「タイラーさんこそ⋯⋯また、ウィルクスへは何の用で」
「なぁ、屋台⋯⋯しばらく、休まないか?作戦行動を開始したい⋯⋯」
すると、優しい笑みを浮かべていた屋台の男は⋯⋯見る見るうちに鋭い目つきへ変わり、軍人の表情と化していた。
「遂にあのハゲがこちら側の世界にまで刺客を差し向けて来たんですね」
「ちがうちがう!敵はあのプーチンじゃない。それに⋯⋯ちゃんとそれなりの報酬と手当も支給される。雇い主は表向きシロリン大聖堂だがこの国だ」
タイラーは事情を丁寧に説明し直すと、屋台の男は即断即決するように快諾した。クリスマス・プレゼント回収班の隊員に志願した。
「またタイラーさんと一緒に戦えてうれしいです!」
屋台の男の正体は⋯⋯タイラーと共にあちら側の世界から逃れて来た元スペツナズ超能力部隊の隊員だった。そんな感じで、タイラーはウィルクス市内を歩いて回り、多くの仲間を集めることができた。
夕刻になり、倉臼への報告よりも先に⋯⋯シロリン大聖堂の裏路地商店街にいるリーのところへ訪れることにした。
座布団工房LEEの前に立つタイラー⋯⋯
しばし、中で忙しそうに座布団を作り続けるリーを見つめる。
すると、近くのイタリア料理店でバイトしていたリーの妹、ランカ・リーがちょうど帰って来た。
「タ、タイラーさん! タイラーさんだよね!」
つづく