元特殊部隊員の山荘管理人

投稿日 2025.01.18 更新日 2025.01.18

 ここはガトー富士の山麓――

 ガトー富士とは⋯⋯首都ウィルクスからも眺めることのできる、富士山ような姿を山だ。ガトー公国最高峰となる山で標高は2525mに及ぶ。山頂には恋愛成就に強いとされるガトーショコラ神社があることでも知られていた。

 ティムジン・タイラーと言う男は、その麓にある山荘にいるらしい⋯⋯倉臼は相棒となるゴンと一緒にその山荘へ向かっていた。

「文磨ぉ~もしかして、あの建物かなぁ?」

「うむ、どうやらあの建物が⋯⋯ティムジン・タイラーと言う男が切り盛りしている山荘らしいな」

 額の汗を拭いながら、地図を確認する倉臼⋯⋯

 前世はチベット密教の僧侶で、ロシアへ亡命した後、スペツナズ超能力部隊の育成に携わった男として知られていた。

 軍関係者の間では⋯⋯

 やり手の超能力系タルパーとして恐れられていた。

 山荘はそこそこの登山客で賑わっていた。倉臼とゴンは受付ロビーで立ち尽くし、中の様子を伺う⋯⋯

「もしかして⋯⋯あの男がタイラーか?」

 倉臼の視線に先には、食堂で注文された品をせっせと配膳する大男がいた。倉臼と目が合うと⋯⋯

「あ、少々お待ち頂けますか! 今すぐそちらへ向かいます!」

 と、威勢の良い声を張り上げて来た。どうやら、この男がタイラーだった。しばらくすると、タイラーが倉臼らのところへやって来た。

「お待たせしました! ご宿泊ですか? お食事ですか?」

「もしや⋯⋯あなたがタイラーさんですか?」

「はい? そうですが⋯⋯」

「私は運光星方教会で大司教をしている倉臼と申します」

「ああ、あのサンタクロースの教会ですか⋯⋯で、私に何か?」

 倉臼は懐から封筒のようなものを取り出すと、それをそのままタイラーに手渡した。封筒の中身はリーからの紹介状だった。

 それを虚ろで⋯⋯どこか悲し気な視線で見つめるタイラー⋯⋯

「倉臼さん⋯⋯すまない。今の私はただの山荘管理人だ。もう、戦えない。いや、戦いたくないんだ」

「正直、山荘に入った瞬間⋯⋯今のあなたの姿を見て、無理だろうなって察してはおりました⋯⋯やはり、そうですか」

 しかし、遠路やって来た者をそのまま追い返す訳にも行かなかった。週末ともあり、タイラーは一泊して温泉にでもつかって行くよう勧めた。倉臼はその勧めに従い、チェックインの手続きを済ませた。

つづく