大司教の迷い
運光星方教会シロリン大聖堂、大礼拝堂――
一人思い悩む倉臼⋯⋯
誰もいない礼拝堂の最前列の席に座り、礼拝堂に掲げられていた十字架を静かに見つめ続けていた。
「一度、配達したクリスマス・プレゼントを⋯⋯強引に奪い返しても良いのだろうか?しかし、事前に見分けるのも困難やし⋯⋯現場のサンタクロースたちの苦労は計り知れない」
そして、深いため息をついた。
その時である――
一人の厳つい体格をした男性が礼拝堂に入って来た。
「おや?大司教じゃありませんか?」
倉臼が礼拝堂の出入口の方を振り向くと、そこには座布団職人のリー氏が、納品用の座布団を両手いっぱいに持ち立っていた。
「ああ、リーさんか⋯⋯」
礼拝堂の座席に備え付ける雑布団を⋯⋯
定期的に洗濯してもらったり、補修したり新しいものへ交換してもらったりと、業務委託していた男だった。
シロリン大聖堂の裏路地で座布団工房を開いていた男だ。
リー氏は⋯⋯
前世は中国人民解放軍のエリート士官で、心霊気功部隊で小隊長を務めていた霊能力者だった。
「古くなった座布団を新しいものに交換させてもらいますね」
「いつも、すまない⋯⋯」
しかし、リーは普段と様子が微妙に違う倉臼の態度を察した⋯⋯
「何か⋯⋯お困りごとでもありそうですね」
「そう言えば⋯⋯リーさんは幾多の戦場を駆け抜けて来た元軍人だよね?」
「はは、もう昔⋯⋯いや、前世のことですわ」
「冷徹に任務をこなせる人たち⋯⋯いないかな?」
「⋯⋯」
「サンタクロースからクリスマス・プレゼントを騙し取る悪い子に⋯⋯躊躇いなくお仕置き、鉄拳制裁できる⋯⋯そんな人たち⋯⋯いないかな」
リーはしばしの黙考の後、ある人物を倉臼に紹介した。
「ティムジン・タイラー? その男はそんなに⋯⋯でも、使う側の立場に不安を覚えさせるような人物でも⋯⋯」
「大丈夫ですよ。彼は約束を必ず守る男です。とても義理堅い男ですよ。むしろ、そう言った任務を⋯⋯得意とする男です」
つづく