大司教の迷い

投稿日 2025.01.17 更新日 2025.01.18

 運光星方教会シロリン大聖堂、大礼拝堂――

 一人思い悩む倉臼⋯⋯ 

 誰もいない礼拝堂の最前列の席に座り、礼拝堂に掲げられていた十字架を静かに見つめ続けていた。

「一度、配達したクリスマス・プレゼントを⋯⋯強引に奪い返しても良いのだろうか?しかし、事前に見分けるのも困難やし⋯⋯現場のサンタクロースたちの苦労は計り知れない」

 そして、深いため息をついた。

 その時である――

 一人の厳つい体格をした男性が礼拝堂に入って来た。

「おや?大司教じゃありませんか?」

 倉臼が礼拝堂の出入口の方を振り向くと、そこには座布団職人のリー氏が、納品用の座布団を両手いっぱいに持ち立っていた。

「ああ、リーさんか⋯⋯」

 礼拝堂の座席に備え付ける雑布団を⋯⋯

 定期的に洗濯してもらったり、補修したり新しいものへ交換してもらったりと、業務委託していた男だった。

 シロリン大聖堂の裏路地で座布団工房を開いていた男だ。

 リー氏は⋯⋯

 前世は中国人民解放軍のエリート士官で、心霊気功部隊で小隊長を務めていた霊能力者だった。

「古くなった座布団を新しいものに交換させてもらいますね」

「いつも、すまない⋯⋯」

 しかし、リーは普段と様子が微妙に違う倉臼の態度を察した⋯⋯

「何か⋯⋯お困りごとでもありそうですね」

「そう言えば⋯⋯リーさんは幾多の戦場を駆け抜けて来た元軍人だよね?」

「はは、もう昔⋯⋯いや、前世のことですわ」

「冷徹に任務をこなせる人たち⋯⋯いないかな?」

「⋯⋯」

「サンタクロースからクリスマス・プレゼントを騙し取る悪い子に⋯⋯躊躇いなくお仕置き、鉄拳制裁できる⋯⋯そんな人たち⋯⋯いないかな」

 リーはしばしの黙考の後、ある人物を倉臼に紹介した。

「ティムジン・タイラー? その男はそんなに⋯⋯でも、使う側の立場に不安を覚えさせるような人物でも⋯⋯」

「大丈夫ですよ。彼は約束を必ず守る男です。とても義理堅い男ですよ。むしろ、そう言った任務を⋯⋯得意とする男です」

つづく