重力魔法が得意なエルフ
タイラーの山荘――
深夜、食堂のカウンターでポンスケがウィスキーを煽っていた。
ポケットからロケットペンダントを取り出し、あちら側の世界にいる想い人の顔写真を見つめる。
すると、背後から女性に声をかけられた。
「あら、可愛い人間の娘さんね。獣人のあなたとどういう関係かしら? あなた⋯⋯前世は本当にウサギで、その娘さんは飼い主さん?」
これにムスッとするポンスケ⋯⋯
「俺の正体はタルパだよ。一般的にはイマジナリーフレンドと呼ばれる存在か⋯⋯この人は俺を作ってくれたマスターだ」
「そう、私は生まれも育ちもこの世界だけど⋯⋯たまに思うわ。あちら側の世界にいる⋯⋯誰かの魂の片割れじゃないかってね」
そこには⋯⋯
ウィスキーのグラスを片手に持ったトットフォーが立っていた。
「隣、いいかしら?」
「別に構わんよ」
「私のこと⋯⋯疑った?」
「今日の霊道開閉訓練の話か? 見事だったよ。そうだな⋯⋯正直、疑ってはいた。そりゃ俺はこのガトー公国の軍人だ」
「そして、かつて⋯⋯そのガトー公国軍と戦っていた私が今ここにいる」
しばらくの間、そんなシニカルな会話が続く。
「ねぇ、私ももう結婚して家族もいる。中学生になる娘が一人いるわ。トボッチって言うの⋯⋯将来は学校の先生にでもなってくれると嬉しいかな。娘には私のような人間になって欲しくないの。言っている意味、分かる?」
「⋯⋯」
「ふふ、なんだか楽しかったわ。それじゃ、これからはよろしくね。同じ部隊の仲間ってことだからね」
トットフォーはそう言い残し、自室へ戻って行った。
ポンスケはグラスの中身をじっと見つめながら⋯⋯つぶやいた。
「噂では金髪ロングヘアの美少女と聞いていたが⋯⋯ありゃ、どうみても40代じゃないか。エルフは結婚して子供を産むと老けるのか?」
かつて⋯⋯
この世界で大きな戦争があった。
魔法の力を駆使して⋯⋯近代的な装備を有する軍隊と互角に戦うエルフの美少女がいた。重力を司る変わった魔法が得意であったことから、異次元空間を操り、こちら側とあちら側の世界を繋ぐ霊道の開閉にも長けていたのだ。
つづく