クリスマスの犬たち
最後の総仕上げとして、霊道通過訓練が執り行われた――
当初は一般的なサンタクロースと同様、トナカイがけん引するそりで出撃する予定であったが⋯⋯
機内はエンジンと回転翼の音が静かに鳴り響いていた。
「この機体には特殊なコーティングを施してあります。墜落したUFOを回収するために運用していた機体と同じものを使用してあります」
タイラーたちの部隊に同行した米軍関係者が自慢げにそう話すと、これにポンスケが関心を示す。
「それにしても⋯⋯NORADのサンタ追跡プロジェクトが、元はエリア51で立案された作戦だったとは驚きだな」
「ははは、UFOブームが下火になっちゃいまして⋯⋯日本のテレビ局もぜんぜん来てくれなくなっちゃいまして、今度はサンタクロースですわ」
今度はタイラーが確認をするように尋ねる。
「この機体そのものを⋯⋯あちら側の世界ではゴースト化できる⋯⋯そういう話だな?」
「そうですね。この機体は幽霊そのものと化します。だから、あちら側の世界の人たちから見えませんし音も聞こえません。霊能者や超能力者と出くわさない限り察知されることはありませんよ」
ポンスケが腕時計を確認する⋯⋯
「そろそろだな⋯⋯トットフォーのやつ。ホントに大丈夫だろうか」
その頃、クリスマス・プレゼント回収班の訓練キャンプで、地面の上に描かれた大きな魔法陣の中心に立つおばさん⋯⋯いや、女性がいた。
魔法陣の外側からその様子を見る地上要員がトットフォーに向かって叫ぶ。
「それではお願いします! 霊道を開いてください!」
「わかったわ! それじゃ行くわよ!」
トットフォーは遥か彼方の空を飛んでいる⋯⋯タイラーたちの乗るヘリを見つめる。そして、目を瞑り呪文のようなものを唱え始めると、魔法陣が光輝き始めた。
「異次元の精霊たちよ⋯⋯ぶつぶつぶつぶつ⋯⋯ぶつぶつぶつぶつ⋯⋯ぶつぶつぶつぶつ⋯⋯霊道を開きたまえ!」
次の瞬間、ヘリの前方100mほどの上空に、ブラックホールのような渦が出現した。
「あちら側の世界に繫がったわよ!中へ進みなさい!」
地上要員は無線でヘリにそのことを伝えると⋯⋯タイラーたちの乗ったヘリは渦の中へ消えて行った。これを見学していたゴンがトットフォーに尋ねる。
「どこに繋げたの?」
「とりあえず、実験なんでしょ?適当に繋げたわ。久々にやったから私もあんまよくわかない」
つづく