取引

投稿日 2025.01.25 更新日 2025.01.25

 平穏な暮らしを望む霊能者や超能力者、タルパーにとって⋯⋯

 大受難の時代を迎えつつあった。

 それは血縁関係のある者も例外ではなかった。特に弟や妹は潜在的にそうした能力を保持している可能性もあると見られていたのだ。

 この手の能力は若い者ほど芽が出やすく、強く開花させやすい⋯⋯

 霊能者や超能力者、タルパーはそうそういない。ならば育成すればいい⋯⋯無理矢理にでも⋯⋯そう言う話である。

 リーの妹はロシア側によって拉致、監禁されていたのだ。資料に添付されていた小さなビニール袋に、女の子の髪の毛が入れられており、それはすぐさま自身の妹、ランカのものであることがわかった。

「ラ、ランカ⋯⋯」

「俺にも少佐と同じ年頃の妹がいるんだが⋯⋯どうやら、少佐の近くに監禁されているようだ」

 タイラーは自身の妹が映った写真をリーに手渡す。

 たしかに⋯⋯

 リーのいる部隊駐屯地内には、霊能力や超能力の研究施設があり、何人かの少年少女たちが中で生活している様子は見たことがある。

「俺はすでに欧米側、MI6と内通している。互いにそれぞれの妹を連れ出し、一緒にイギリスへ亡命するのはどうだ?」

「⋯⋯わ、私は⋯⋯祖国に忠誠を誓っている⋯⋯」

「共産党は本来、宗教やオカルト的なものを嫌っているはずだ。少佐⋯⋯あんた、遠からず粛清されるぜ。俺だってどうなるかわからない。今のロシアなんか到底信じられない。俺も少佐も⋯⋯所詮、上層部からはバケモノ扱いされていると思うぜ。どこかのタイミングで必ず始末されるよ」

「⋯⋯⋯」

「迷ってるヒマはないぜ。亡命のための計画、段取りは次のページに書いてある。考える時間を与える。また、三日後、ここにやって来る。とりあえず、生霊飛ばしも限界だ。ちょっと苦しくなって来たからもう消えるぞ」

 タイラーはそう言い残すと姿を消した。

 リーはファイルの中身を隅々まで確認して、内容をすべて頭の中に叩き込み覚えると、暖炉の火の中へ放り投げて隠滅した。

「ティムチン⋯⋯彼の妹か⋯⋯どうやら、ウソではなさそうだ」

 目を細めながら暖炉の炎を見つめるリー⋯⋯

 翌日、リーは部隊に出勤すると、たしかにタイラーの妹がいたことを確認した。リーの中に⋯⋯何かのスイッチが入った。

「俺は英語が得意だし⋯⋯生活に困ることはないだろう」 

 三日後の夜、再びタイラーがやって来る予定だ。それまでに出来得ることはしておこう。そう決断した。

つづく