裏サンタクロース
その日の夜、二人は山荘のカウンターでウィスキーを飲み交わした⋯⋯
クリスマス・プレゼント回収班、裏サンタクロースは⋯⋯当初、シロリン大聖堂の私兵集団として発足される計画だった。
しかし、当局への武器使用許可申請に時間がかかる見通しから、表向き軍の特殊部隊として活動して行く方向で決定したのだ。
このため、海軍特殊コマンドに所属していたポンスケが、軍のオブザーバーとして派遣されることになった。
「噂は聞いてるぜ。あの⋯⋯神様タルパーの真犯人だってこともな」
「そうか、そこまで知っているのか⋯⋯」
「俺の部隊に勧誘しようと思っていたくらいだ。なぁ、妙な質問をするが⋯⋯今回の件、元軍人として血が騒いだからか?罪滅ぼしのつもりか?」
「そうだな⋯⋯あえて言うなら、師匠に見返してやりたい⋯⋯そんなつまらない意地、プライドが、俺の中に止めどもなく湧き立って来たからかな」
「チベットの寺院の師匠さんのことか⋯⋯」
タイラーはグラスをゆっくり回しながら、独り言でも呟くように自身の昔話を始める。
インド、ダラムラサでの寺院の生活に飽きて、広い世界を求めて海外へ飛び出すも⋯⋯気がつけば、数多の戦場を駆け抜ける軍人として、血なまぐさい生活をしていたことに強い自己嫌悪を覚えるようになって行ったのだ。
MI6の手引きでロシアからイギリスへの亡命に成功するも、追っ手から完全に逃れるのは至難だった。
こうして⋯⋯
タイラーは今、こちら側の世界にいる。
あちら側⋯⋯現世で生き別れとなっていた妹とも再開でき、ようやく、安寧の日々を手に入れることができた。
しかし、常に師匠のことを忘れずに生活していた。
タルパ⋯⋯
それはチベット密教で伝えられし秘奥義⋯⋯
何もない無の空間から独立した意思を持つ存在を生み出す御業⋯⋯
修行を極めた証として⋯⋯
チベット密教の僧侶が挑戦するものだ。
「俺はまだ⋯⋯何も極めちゃいない。何も極めちゃいないんだ」
「何かいろいろ訳がありそうだな。俺たち軍人は⋯⋯いや、その前にあんたにはあんたの立場があるようだな。だが、あまり自分を責めるなよ。とりあえず、大切な人を守れるだけでいいんじゃないか?」
ポンスケはベルトにチェーンで繫がれたロケットペンダントをポケットから取り出すと、あちら側の世界にいる想い人、夕菜の顔写真を見つめる。
つづく