サンタクロースのそりが空を飛ぶ理由
あれから一週間ほど経過した――
タイラーは人の目が憚れる山荘近くの森の中の空き地で⋯⋯
倉臼から貸与されたサンタクロースのそりを使用して、今後予想される作戦行動の検証を行っていた。
悪い子の自宅を強襲して、クリスマス・プレゼントを没収、回収するため運搬手段として適切なものかどうか確認をしていた。
ところで、サンタクロースのそりが空を飛ぶ理由について⋯⋯
考えたことのある人はいるだろうか?
なぜ、サンタクロースのそりは空を飛ぶことができるのか?
多くの人が、遠い昔の幼い頃に⋯⋯
意識の中へ刷り込まれ、当たり前の光景として認識されて行く。そして、大人になっても、何の違和感を覚えることなく受け入れられている。
とりあえず⋯⋯
サンタクロースがたくさんのクリスマス・プレゼントを運ぶために使用する乗り物として捉えられている。
しかし、それは見た目の問題に過ぎない。
厳密には、霊道を通じて⋯⋯
こちら側の世界とあちら側の世界を行き来するための乗り物である。似たようなものに地獄少女の輪入道がある。
しかし、タイラーは思いのほかトナカイの取り扱いに手こずっていた。
「やはり、こいつじゃ無理だ。UH-60と言わないまでも⋯⋯せめて、UH-1でもいいから用意してもらおう」
タイラーは空を見上げ、太陽に手をかざす⋯⋯
「あんたがタイラーか?」
突然、誰かから声をかけられたことに驚くタイラー⋯⋯
声が聞こえて来た方向を振り向くと、そこには腕を組み、木にもたれかかるよう立つ⋯⋯恐らく、ウサギ族だろうか。大柄の獣人男性がいた。
「なっ!!」
接敵にまったく気づかなかった自分にも戸惑う。
ウサギ族の男性はタイラーよりも身長、体格は大きく⋯⋯目つきと風貌から軍人とすぐに見抜いた。
「驚かせてすまない。俺はオブザーバーとして軍から派遣されて来たポンスケ軍曹だ。UH-60⋯⋯ブラックホークが必要なんだな?なら、今すぐ手配する」
気がつくと、ポンスケ軍曹の肩にはゴンが乗っていた。
「僕もしばらく一緒に面倒みるよ!」
つづく